2019/10/07
このように、わたしたちは揺り動かされることのない御国を受けているのですから、感謝しよう。 ヘブ12:28
9月に日本列島を襲った台風15号の被害は、千葉県を中心に甚大なものだった。多くの住民が、家を壊され、また長引く停電の中で喘いでいた。私たちはただただテレビの前で、映し出される被害状況の酷さに言葉を失ってしまっている。ブルーのビニールシートを屋根にかけられた家々の姿が痛ましい。
なんということだろう、この国を次々に襲う自然災害の多さ。昨年の中国地方を襲った風水害の復興もままならぬまま、次から次に自然災害が起こってくる。2011年の東日本大震災からまだ10年と経たないうちに、私たちの国は自然の猛威にさらされ続けている。地震、津波、台風、火山爆発などなど、数え上げればきりがない。。家を失い仮設住宅での暮らしを余儀なくされている人や故郷へ帰りたくても帰れない人。愛するものを突然失い、その悲しみから今も癒されぬ人。私たちの周りにはそんな人人人が溢れているのだ。そんな中、無情にも消費税は値上げされる。今電力会社はじめ、権力者の不正が暴かれ、その悪行の数々が明るみに出るたび、怒りを通り越して、呆れるばかりだ。
「古事記」には、かつて仁徳天皇が、山の頂より街を眺め、かまどの煙の上がっていないことを見、民の苦しむ姿に、3年の間、税を取らなかったことが記されている。はたして今の為政者たちは、あのビニールシートのかけられた家々の姿を見ながら、何を思うのだろう。少なくとも、新しい元号を「万葉集」よりとったことを鼻高々に自慢するなら、この「古事記」の一事に倣おうと言うものが現れても良いのではないだろうか。そんなことを思うのは、私だけではないだろう。
きっと、それは神話であって現実の世界の話ではないと言う方もおられるだろう。また、困窮者のためにこそ、消費税を値上げするのだと力説される向きもあるだろう。しかし、その一方で、電力会社のお偉方が、何億ものお金を右から左に動かし私腹を肥やしている事実を知った今では、それらの言葉も空虚な響きでしかない。私たちは、仁徳天皇が実在したかどうかより、今、そのような理想の為政者の現れることをこそ望んでいるのではないか。
アシュラム運動の創設者スタンレージョーンズ師は、1930年代のソビエト連邦モスクワへの伝道旅行中に、一つの大きな霊感(インスピレーション)を与えられた。当時のモスクワは革命後、共産主義が世界を席捲する勢いであったと言う。そのような中で、師が福音を語ることは困難を極めたと言う。「あなたは理想主義者であり、 我々は現実主義者なのだ」共産化のモスクワにあって、キリストの正義も平和も、それはただ絵空事の神話であり、自分たちこそが現実を知り、その問題の解決を果たすことができる。彼らは皆堂々と胸を張り、スタンレージョーンズの語る神の国を嘲笑したのだ。しかしその時、彼は、聖書のみ言葉により一つの確信を得る。それが「このように、わたしたちは揺り動かされることのない御国を受けているのですから、感謝しよう。 」(ヘブ12:28)との言葉であり、そのことを彼は最後の著書「振るわれない御国と変わらない人格」に記し世に問うたのだ。人間の知恵や力でつくりだそうとした理想的制度やシステムも、それはいつか崩壊してしまう。目新しい思想も、深遠な哲学も、それはいつしか古びたものと慣れ果ててしまう。けれども、神の国と神の義とは、どんな時であろうと、場所であろうと決して揺り動かされず、変わることはない。共産国家ソ連が、その後どうなったかは言うまでもないだろう。永遠に続くかのように思われる権力者たちも、必ずいつかは終焉する。
私たちの目の前に映る現実は、永遠に変わらないもののように見えるかもしれない。少数の権力を握る者だけが利益を得、そこに群がる者たちが、こぼれ落ちてくるパンをいただこうする。弱い者、小さな庶民は常に搾取され、いつも貧乏くじばかりひかされる。そして、それが私たちの運命だと、早々に諦めた者が賢い者のように見える。しかし、そうではない。私たちは知っているのだ。そのような現実の只中に、しかし必ず「振るわれない御国」があることを。そして全ての支配者である変わることのない人格者のいることを。諦めるのではなく、私たちは、それを信じ求め続けようよ。神話でもなく、理想でもない現実におられる方の神の国とその義を。
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